(独)農業生物資源研究所、富山県立大学などの共同研究グループは2月25日、社会的な集団生活をしているアリが、個体同士で情報交換する際にアリの体内で働いている新物質を発見したと発表した。フェロモンなど触角から取り込んだ情報伝達物質を神経細胞にまで運ぶ新型タンパク質で、その立体構造も明らかにした。アリ以外には作用しない、安全で環境負荷の少ない農薬の開発につながると期待している。
■低環境負荷の新農薬開発も
新物質は、同研究所や富山県立大学のほか、東京大学、筑波大学の研究グループがクロオオアリの働きアリの触角から発見した。人間の体内でコレステロールを輸送する「ヒトNPC」とよく似ていたため、発見した輸送タンパク質を「アリNPC」と名付けた。
このタンパク質は、触角の中で情報伝達に関わる部分でのみ働いていることを確認した。また、輸送する情報伝達物質は、オレイン酸をはじめとする脂肪酸や酢酸ヘキサデシルなど多数あることがわかった。
これまで、アリの輸送タンパク質として匂い物質結合タンパク質や化学感覚子タンパク質などが知られているが、数種類の情報伝達物質しか輸送できず、全部合わせても30種類程度の情報伝達物質にしか対応できなかった。
しかし、アリが情報交換に使っている情報伝達物質は500種類以上あるとされており、未知の輸送タンパク質の探索が大きな課題となっていた。
研究グループはX線を利用して新型タンパク質の立体構造も決定、その構造をヒトNPCと比較したところ、アリとヒトではどの情報伝達物質に結合するかを見分ける認識様式が異なっていることを突き止めた。このため、アリNPCはヒトやアリ以外の昆虫が持つ同様の輸送タンパク質とは結合する物質が明確に異なり、害虫アリにだけ効果を発揮する新農薬の開発に理想的とみている。

アリが触角で受け取った情報伝達物質を輸送して情報を伝える仕組み(提供:農業生物資源研究所)