高エネルギー加速器研究機構(KEK)と(独)物質・材料研究機構は2月26日、銅(Cu)、イリジウム(Ir)、イオウ(S)などから成るイリジウム化合物に、これまで知られていなかった新奇な磁気的性質が見つかったと発表した。亜鉛(Zn)をまったく含まないイリジウム化合物「CuIr2S4」は、従来信じられていたような非磁性状態ではなく、絶対温度約100K(-173℃)以下の低温で磁性を持ち、その磁性はCuがわずかにZnに置き換わると急激に消失することが分かったという。
■スピン・軌道相互作用の重要性を示唆
イリジウムは周期表の第3族から第12族を占める遷移金属元素のひとつで、近年イリジウムの化合物が示す特異な性質が注目されている。
研究チームは今回、茨城県東海村にある大強度陽子加速器施設(J-PARC)とカナダの国立素粒子原子核物理研究所(TRIUMF)でミュオン・スピン回転法という分析法を用いてCuIr2S4の磁気的性質を調べた。
その結果、約100K以下の低温でイリジウムの磁気モーメントによると思われる内部磁場の誘起を観測した。これまでの理解によるとイリジウムの磁気モーメントは消失しているはずだが、そうでないことが示されたもので、内部磁場分布が一様ではなく、大きな乱れを伴っていることも明らかになったという。
また、Cuをわずか0.01%程度Znに置換するとイリジウムの磁性が急激に失われることを見付けた。これらの結果は、遷移金属におけるスピン・軌道相互作用の重要性を示唆しているという。