(独)物質・材料研究機構と東北大学金属材料研究所、同電気通信研究所は4月2日、「非磁性体材料に埋もれた強磁性層のスピン分解電子状態」を検出することに成功したと発表した。エレクトロニクスの次の電子情報技術を担うスピントロニクスの研究開発への貢献が期待できるという。
■「Spring-8」の高輝度硬X線を利用
電子の電気的性質だけではなく電子の回転(スピン)がもたらす磁気的性質も利用するスピントロニクスでは、強磁性体と絶縁体がサンドイッチ状の多層構造をとるトンネル磁気抵抗素子などの場合、その性能は強磁性体と絶縁体の界面近傍のスピン電子状態に左右されると考えられている。
この電子状態を調べる方法としては、物質に光を当てた時に物質から放出される光電子を測定して情報を得る光電子分光法がある。なかでも、物質中の電子状態をスピンの向きを区別して測定する方法をスピン分解光電子分光法といい、近年、真空紫外光や軟X線を光源に用いたスピン分解光電子分光法が利用されている。しかし、この方法では非磁性体材料に埋もれた強磁性層からの情報を得ることはできなかった。
研究チームは今回、光源として大型放射光施設Spring-8から放出される高輝度硬X線を利用、新たに考案したスピン検出法をこれに組み合わせ、物質内部の電子状態を効率よく検出する方法を生み出した。
この硬X線スピン分解光電子分光法を、金(Au)薄膜層の下に埋もれた鉄ニッケル(FeNi)合金強磁性層に適用したところ、強磁性層からのスピン分解電子状態の検出に成功したという。こうした情報の取得は、今後の素子性能向上研究の有力な手掛かりになるという。