(独)産業技術総合研究所は6月9日、携帯端末など電子機器用の次世代素子シリコン製の「トンネル電界効果トランジスタ(トンネルFET)」の動作速度を10倍以上に高める新技術を開発したと発表した。実用化の壁となっていた動作速度が改善できるため、今後は論理回路の試作に応用、回路動作の実証を進める。同研究所は、新技術が低消費電力化や量産性で優れた特性を持つシリコントンネルFETの実用化に役立つと期待している。
■不純物導入しトンネル確立高める
コンピューターや携帯端末など電子機器の頭脳部分に欠かせない超LSIには、シリコン半導体を用いた電界効果トランジスタ(MOSFET)が使われている。シリコントンネルFETは、将来これに代わる次世代素子として期待されている。
MOSFETが電流のオン・オフ動作に電圧を使うのに対し、トンネルFETは量子力学的な現象「トンネル効果」を利用する。トンネル効果は、本来なら電子が跳び越えられない高さの壁を電子が一定の確率(トンネル確立)で越えていく現象で、トンネルをくぐり抜けるように見えることから名付けられた。
従来はトンネル抵抗が高い(壁を跳び越えるトンネル確率が低い)ため、高速動作に必要な電流を得るのは難しかった。これに対し、今回、壁の途中に不純物を導入し、跳び越えるための足場に相当する構造「中間準位」を作ることで跳び越えやすくした。
シリコン半導体を材料に新技術を用いてトンネルFETを試作、実験したところ、オン・オフ動作を行なうための駆動電流を従来のシリコントンネルFETの10倍以上に増やすことに成功。トンネルFETの動作速度も10倍以上に高速化できることを確認した。
一方、FETより簡単な構造のシリコンダイオードに用いた実験では、トンネル電流が735倍にまで高くできることがわかった。トンネルFETの実用化には駆動電流を従来の100~1000倍にすることが必要といわれているが、ダイオードの実験からトンネルFETでもその実現は十分可能とみて、今後はトンネルFETでさらに高い駆動電流の実現を目指す。
トンネルFETは、オフ動作時の待機電力が小さく省エネ性が高いという特徴を持つが、新技術を用いた場合でもこの特徴は変わらないことも確認できた。