イモリの網膜再生のメカニズムを解明
―網膜色素上皮細胞を多能性細胞化して形成
:筑波大学/宇都宮大学(2014年8月21日発表)

 筑波大学は8月21日、宇都宮大学と共同で成体のイモリの網膜再生のメカニズムを解明、その初期過程を詳しく解析したと発表した。イモリは網膜を失った場合、網膜の最も外側の網膜色素上皮細胞を独特の多能性細胞に変え、この細胞から正常な網膜を再生していることが分かった。イモリの網膜再生の初期過程は、ヒトの外傷性網膜疾患の初期過程と多くの点で共通しており、ヒトの網膜治療への生物学的な新しい基盤作りに通じると期待される。

 

■ヒトの網膜疾患後の細胞の挙動とも共通点

 

 網膜色素上皮細胞は、視覚情報を処理する神経性網膜の機能を支え、神経性網膜とともに網膜を構成、正常な状態では細胞分裂はしない。しかし、成体イモリでは、神経性網膜が外傷を受けると、細胞分裂を始め、網膜形成へ動く。

 研究グループは、麻酔をかけた成体のアカハライモリの眼球から神経性網膜を取り除くと、網膜色素上皮細胞は、細胞どうしの結合を失い細胞塊を形成、約50日で再生されて行く過程を詳しく追った。細胞塊は5日から10日で多能性細胞を標識する「Sox2」、「c-Myc」、「Klf4」、「Mitf」、「Pax6」など5つの遺伝子を発現し、多能性が獲得されたと考えられた。さらに細胞塊は、10日~14日にかけて2つの細胞集団に分かれ、一つは神経性網膜を形成する細胞群を、もう一つは網膜色素上皮を形成する細胞群を構成、それぞれが増殖して最終的に新たな神経性網膜と網膜色素上皮を作り、構造的にも機能的にも完全な網膜を再生することが分かった。このように体細胞の”初期化”によるイモリの網膜再生の過程を単一細胞レベルの段階から明らかにしたのは今回が初めてという

 ヒトでも神経性網膜が傷つくと、網膜色素上皮細胞は上皮の性質を失い、動きだして増殖を始める。しかし、こうした細胞は最終的には筋繊維芽細胞などに転換し、網膜の再生にはならない。ただ、ヒトの場合もイモリと同様の遺伝子発現がみられる。イモリの網膜再生とヒトの外傷性網膜疾患には外傷後の網膜色素上皮細胞の動きや遺伝子発現について多くの共通点があることが明らかになった。

 研究グループは、イモリ型再生を適用した新たな網膜疾患の治療研究や新薬開発などが期待されるとしている。

詳しくはこちら