左は、トマトモザイクウイルスを感染させた普通のトマト。右は、Tm-1遺伝子を導入した組み換えトマト(提供:農業生物資源研究所)
(独)農業生物資源研究所と大阪大学、岩手医科大学は8月20日、トマトに大きな被害をもたらす病原ウイルスの感染の仕組みを分子レベルで解明したと発表した。ウイルスに強い野生種のトマトが感染を防ぐために遺伝子変異を起こすなど、トマトとウイルスが互いに生き残りをかけて進化する戦略を持っていることが明らかになった。この成果を利用して現在、新しい抗ウイルス剤の開発に取り組んでいる。
■新しい抗ウイルス剤の開発に取り組み
今回調べたのは、トマトの葉にまだら模様を生じさせるトマトモザイク病ウイルス。せん定作業などによる接触で広がり、被害の拡大が大きな問題になっている。
研究チームは、野生種のトマトのうち「Tm-1」と呼ばれる遺伝子を持つ品種がこのウイルスの感染を免れる抵抗性を示すことに注目、その仕組みを詳しく調べた。その結果、この遺伝子が作るタンパク質が、ウイルスが増殖のために作る複製タンパク質に結合、その働きを阻害していることが分かった。
これらのタンパク質の立体構造をX線で解析したところ、トマトのTm-1遺伝子が作るタンパク質はウイルスの複製タンパク質の特定領域に結合することを突き止めた。あらゆる生物が持つエネルギー代謝のための化学物質「アデノシン三リン酸(ATP)」が、その接着剤として働いていることも突き止めた。
一方、Tm-1遺伝子を持つトマトにも感染するウイルスが知られているが、その複製タンパク質を調べたところ、特定領域の2カ所でタンパク質を構成するアミノ酸が、別のアミノ酸に置き換わっていた。そのため、Tm-1のタンパク質がウイルスの複製タンパク質に結合できなくなり、トマトはウイルスの感染を防げなくなっていた。
反対に、この変異ウイルスにも抵抗性を示す野生種のトマトも存在している。このトマトは、Tm-1遺伝子を変異させてATPとは別のメカニズムでウイルス増殖に必要な複製タンパク質に結合、その働きを阻害していた。
研究チームは「トマトとウイルスは互いにアミノ酸を変化させる生き残り戦略を持っている。今回の研究でその攻防を分子レベルで示すことができた」と話している。今後、Tm-1遺伝子のタンパク質の代わりに複製タンパク質の特定領域に強く結合し、変異するウイルスにも対応できる抗ウイルス薬剤の開発を進める。