(独)農業生物資源研究所は9月19日、東京大学医学部附属病院と共同で、ブタのコラーゲンから副作用がなく生体適合性に優れ、角膜の再生に適した「アテロコラーゲンビトリゲル膜」と呼ぶ新素材を開発したと発表した。
■透過性もちヒト細胞の付着性も
コラーゲンは、皮膚や骨などを構成するタンパク質のひとつで、アレルギーなどの原因となる分子を除去したコラーゲンをアテロコラーゲンという。
今回の成果は、ブタのアテロコラーゲンを使って透明性と生体適合性、眼内の栄養分や水分を行き来させる透過性、さらに強度を併せ持った半球面形状の角膜再生材料を作ることに成功したもので、この新素材を足場にしてヒトの細胞を培養し角膜組織を再現したとしている。
角膜移植では、一度傷つくと自然治癒しない角膜内皮の交換が必要となるが、角膜内皮は、わずか1層の細胞で、かつ角膜の裏側にあり、それだけを移植することはできない。そのため移植するには、支えてくれる「足場」となる素材が必要で、その足場として角膜の形状に見合った半球面を持つ透明で、透過性をもち、角膜内皮細胞がしっかりと接着する素材が求められている。
新素材を角膜移植の足場に使えば「角膜の裏側にコンタクトレンズをつける要領で新しい角膜内皮組織を構築できるようになる」という。
同研究チームは、①ウサギの眼にこの新素材を移植する試験を行ったところ、炎症などを起こさず良好に定着、②この新素材はヒト細胞の吸着性に優れ、足場に使ってヒトの角膜内皮細胞を培養して再生医療に用いるための角膜内皮を再現することができた、という。こうしたことから新素材は、副作用がなく生体適合性の高い角膜再生素材として利用できることが分かった。
世界的に角膜移植に必要な角膜は不足していて、わが国でも年間700人程度が移植の順番を待っている状況。角膜内皮を培養して移植する再生医療が実現すれば、待機患者により早く移植ができるようになる。東大付属病院は、この新素材を利用して角膜移植が必要な水疱性角膜症などを治療する研究を行う計画を進めている。

上は、アテロコラーゲンビトリゲル膜で作製した角膜再生素材。左が上から見たところ(白色リングの内側の透明部分)、右が横から見たところで、透明部分が半球面をしている。下は、アテロコラーゲンビトリゲル膜にヒトの角膜内皮細胞を培養して再構築した角膜内皮組織(提供:農業生物資源研究所)