原子2種が交互につながる鎖をCNT内に作成
―微小光源など新しい電子光学素子に有望
:産業技術総合研究所(2014年9月12日発表)

 (独)産業技術総合研究所は9月12日、直径が1nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)以下の極細カーボンナノチューブ(CNT)内に原子の鎖を作ることに成功したと発表した。作ったのはセシウムとヨウ素の原子が交互につながった鎖で、通常の立体的なヨウ化セシウム結晶とは異なる光学特性を示すことなどが分かった。微小光源や光スイッチなど新しい電子光学素子への応用が期待できるとしている。

 

■CNTにヨウ化セシウムの蒸気を接触

 

 カーボンナノチューブは炭素原子が結合してできた中空の繊維状物質。電気的な特性や軽くて高い強度を持つことなどから、新しい電子材料や構造材料として注目されている。

 産総研は今回、ヨウ化セシウムの蒸気をカーボンナノチューブにあてて中空構造内部の微細空間に高効率で取り込む技術を開発。正の電気を帯びたセシウムイオンと負の電気を帯びたヨウ素イオンが一列につながった原子の鎖を、カーボンナノチューブの中空構造内部に作ることに成功した。

 そこで、特殊な電子顕微鏡を用いるなどして、この原子の鎖を詳しく分析した。その結果、セシウムとヨウ素の原子が交互に並んでいることや、この原子の鎖に光をあてたときに光の入射方向で吸収される光の波長帯が異なることなどが分かった。

 また、原子の鎖からヨウ素原子やセシウム原子が抜け落ちた欠陥部分があることも突き止め、ヨウ素原子が抜けた所は電子を放出しやすく、セシウム原子が抜けた所は電子を受け取りやすいことが分かった。このような物理的な特性を利用することで、微小光源や光スイッチなど新しい電子光学素子への応用に道が開かれるという。

 産総研は今後、電子光学素子への応用を目指してヨウ素とセシウムでできた原子鎖のより詳しい特性の解明を進めるとともに、ヨウやセシウム以外の様々な原子を組み合わせた新たな材料の開発に取り組む。さらに、今回の研究で得た微細空間内でのセシウム原子の動きに関する知識を、ゼオライトなどの多孔質材料を用いた放射性セシウム除去技術の性能向上にも役立てる。

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図

左は、カーボンナノチューブにヨウ化セシウムを閉じ込めた原子鎖の電子顕微鏡像。右は、その模式図(提供:産業技術総合研究所)