室温ミュオニウムの大量生成に成功
―超精密測定可能に、「標準理論の綻び」検証に向け前進
:高エネルギー加速器研究機構/理化学研究所ほか(2014年9月18日発表)

 高エネルギー加速器研究機構(KEK)と(独)理化学研究所、J-PARKセンター、TRIUMFカナダ国立素粒子研究所などの研究グループは9月18日、真空中での室温ミュオニウムの大量生成に成功したと発表した。これにより、素粒子ミュオンの基本的性質を超精密に測定できるミュオンビームを作ることが可能となる。電磁気力や核力などの力を統一的に理解する物理学の「標準理論」には収まり切れない「新しい物理現象」の発見につながることが期待できるという。

 

■収量、従来法の10倍にも

 

 ミュオニウムは、水素原子の原子核である陽子が、正電荷を持つ反素粒子の一種のミュオンに置き換わった、電子と正ミュオンとから成る粒子。室温で生成されるほぼ静止状態のミュオニウムから電子をはぎ取り、超低速状態のミュオンを速やかに加速すると、極めて指向性のよいミュオンビームが作り出せる。

 このビームを利用すると、小林・益川理論では説明できない対称性の破れなど、標準理論を超える新しい物理現象を明らかにできると期待され、J-PARKセンターでは、「g-2/EDM」と名付けた実験を計画しているが、精度の高い実験を行うには大量のミュオニウム生成が必要とされている。

 研究グループは今回、シリカエアロゲルにレーザー光で一定条件の穴加工を施し、ミュオンの減少を抑えるという技術を考案、このレーザー加工法を用いて、室温の熱エネルギーを持つ、いわゆる室温ミュオニウムの収量を、既存の技術で生成できる量の約10倍に増加させることに成功した。

 これはg-2/EDM実験で目指している高い精度の精密測定に大きく近づく成果で、標準理論の綻びの検証につながることが期待されるという。また、物質内磁場を精密に観測するミュオンビームを用いたミュオン顕微鏡への応用も期待できるとしている。

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