(独)農業・食品産業技術総合研究機構の果樹研究所は12月3日、手間のかかる人工授粉なしに実をつけるナシ作りに役立つ技術を開発したと発表した。日本のナシは自家受粉では実を付けない性質を持つが、どんなナシにも実を付けさせる花粉が作れるナシを放射線照射による突然変異で作り出すことに成功した。このナシをさまざまな栽培品種と交配させれば、これまで難しかった自家受粉で実のなる新品種が作れるという。
■人工授粉作業のいらない新品種開発可能に
ナシには、日本で主に栽培されるニホンナシのほかに、中国ナシと洋ナシの3種類がある。ニホンナシは、多様な性質を持つ子孫を作るために自分の花粉が雌しべについても実がならないという自家不和合性がある。このためナシ栽培では人工的に他のナシの花粉を人工授粉させる作業が欠かせない。
果樹研究所は、放射線育種場で放射線の「ガンマ線」を照射されたニホンナシの「幸水」の樹から花粉を採取、照射区域外にある幸水に受粉させて新しい苗木を作った。その結果、この苗木は自分の花粉で実を付けることが分かった。
そこで詳しく調べたところ、自家不和合性を制御する仕組みが、ガンマ線照射による突然変異を起こしていた。制御には雌しべ側と花粉側の遺伝子がそれぞれ関与していることが知られているが、今回の苗木では通常は2個しかない花粉側の遺伝子が3個に増えており、それが自家受粉でも実を付ける原因になっていることを突き止めた。
また、新しい苗木を用い自家受粉によって実を付ける割合(結実率)を調べたところ、70%以上という高い結実率を示した。また、この苗木からとった花粉を別の品種「王秋」に受粉させたところ、やはり高い結実率を示したという。一方、王秋の花粉を苗木の雌しべに受粉させても実を付けることはなかった。
これまで雌しべ側の遺伝子変異によって自家受粉が可能になったナシは1品種だけが知られているが、花粉側遺伝子を変異させて可能にした例はなかった。今回の成果によって花粉側で自家受粉を可能にする新たな戦略に基づく新品種開発ができると、果樹研究所は期待している。