(国)産業技術総合研究所ナノ材料研究部門の末永和知首席研究員と千賀亮典研究員は7月31日、同研が独自開発した低加速電子顕微鏡と、電子エネルギー損失分光法(EELS)を併用して、リチウムなどの軽元素の原子を精度よく一つ一つ可視化することに成功したと発表した。
■塩素、ナトリウム、フッ素の原子も可視化
さまざまな物質の究極の姿を映し出してきた電子顕微鏡でも、軽元素の直接観察は難しい。電子顕微鏡は試料に強力な電子線をあて、散乱した電子を検出して原子の姿を捉える。ところが軽元素は軽いため、まるごと電子線に弾かれ、あるいは散乱する電子数が不足して明瞭な像が得にくいという原理的な問題があった。
低加速電子顕微鏡は、加速電圧を30kV(キロボルト)前後に低くし、試料のダメージを減らしつつ画像の精度を高める工夫を凝らしたもので、同研が世界に先駆けて開発した独創的な技術。今回はリチウム原子を守るために、フラーレンと呼ばれる炭素分子のカゴに入れてシールドした。同時に元素に特有のエネルギー損失状態から元素や電子状態を調べるEELSを併用した。
その結果、電子顕微鏡像ではリチウムは見えないがカゴが写り、EELSではリチウム原子の位置がはっきりと捕らえられた。両方を重ね合わせることで、リチウム像が一目瞭然となった。
この方法でリチウムのほかにナトリウムやフッ素、塩素の軽原子も可視化が可能となった。さらにEELSでは原子の化学的な性質もつかめるため、リチウムが化学反応を起こしながら物質間を移動する結合状態も直接観察できる。
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今回開発した手法の模式図(左)と実際に撮影したリチウムの単原子像(右)(提供:(国)産業技術総合研究所)