液化水素の蒸発原因の「オルト-パラ転換」を観測
―水素の有効利用に新たな知見得られる
:筑波大学/京都大学/九州大学/東北大学ほか(2015年7月30日発表)

 筑波大学をはじめとする京都、九州、東北、大阪府立、島根の各大学と(国)産業技術総合研究所、(国)理化学研究所などの研究グループは7月30日、冷却貯蔵中の液化水素の蒸発原因となる「オルト-パラ転換」現象を観測し、メカニズムを解明したと発表した。液化水素の蒸発に対し新しいアプローチでの解決の糸口を示す成果という。

 

■多孔性配位高分子内での水素の配列変化で転換

 

 2つの電子と2つの原子核から成る水素には、核スピンの向きが両方とも同じ「オルト水素」と、逆向きの「パラ水素」の2種類あり、通常の水素ガスや液化水素はオルトとパラが3対1の比率になっている。

 ところが、冷却タンクに貯蔵しているとタンク内壁との相互作用や水素分子間の相互作用によりオルト状態からパラ状態への転換が起き、その際、両状態のエネルギーの差分の熱が放出され、この熱によって液体水素の蒸発が生じる。これを避けるにはオルト水素をあらかじめパラ水素に転換しておくことが有効で、そのための触媒利用が進んでいるが、オルト-パラ転換の機構については観測された例がなかった。

 研究グループは今回、各大学や研究機関が保有する最先端の観測実験設備・装置類を駆使し、触媒作用がある多孔性配位高分子の中に吸蔵された水素分子の高速核スピン変換現象の観測を試みた。

 その結果、温度を制御すると、多孔性配位高分子の細孔内での水素分子の配列が変化することをキャッチ、水素分子のこの配列変化に伴い、ほとんどのオルト水素が数百秒以下でパラ水素に転換されることを見出した。

 細孔内には場所によって電場の勾配が存在し、水素分子の配列の変化に伴い、電場勾配を受けた水素分子の核スピンが高速に転換することも解明した。

 これらの観測結果は、多孔性配位高分子の細孔内における内部電場勾配がオルト-パラ転換の触媒作用を促進することを示すもので、この成果は水素の効率的利用を促すだけではなく、新機能の開拓・活用への展開が期待できるという。

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