
シンクロトロンμCTで口を調べた原始的昆虫類であるトビムシ目とコムシ目(提供:筑波大学)
筑波大学と(公財)高輝度光科学研究センターは7月29日、昆虫が噛んだり吸ったりするのに特殊化した多様な口を持つようになった進化のナゾを解く新説を発表した。口を構成するいくつかの“部品”が構造的に連関して動く祖先型から進化したとする説で、部品が相互の連関なしに別々に動く単純な構造から多様化したという従来の説を覆した。今後、過去の地球環境に関する研究と統合することで、昆虫類の進化に関するより詳しい理解が進むと期待している。
■口の進化で多様な食物摂取が可能に
昆虫の口には、バッタなどに見られる「噛み口」、セミやハチ、チョウなどの「吸収口」、ハエなどの「なめ口」などさまざまな形がある。地球上でもっとも多様化した生物である昆虫は動物種全体の約75%を占めるが、それは口の形をさまざまに特殊化させたことで多様な食物を利用できるようになったためとみられている。ただ、その進化の過程については未解明な部分が多かった。
そこで研究グループは、原始的な昆虫類である翅のないトビムシ目とコムシ目の昆虫の口の形状を詳しく調べた。分析には、大型加速器から放射される高輝度X線を利用して微細な構造を高解像度の三次元画像にできるシンクロトロンμCT(コンピューター断層撮影装置)を利用した。
その結果、一般に昆虫類が胸部に持っている3対の脚に対応した頭部の構造「小顎突起」がこれらの昆虫にあることを確認。この突起によって口を構成する“主要部品”である小顎と大顎が連関して動き、全体として口の機能を発揮していることが分かった。さらに、大顎が「下咽頭骨格」や「頭函骨格」と呼ばれる構造によって支えられて機能するという共通点も持っていた。研究グループは、この共通点や昆虫の進化の道筋を示す系統樹の研究から、今回確認した構造が昆虫類の口の祖先型であると結論付けた。
これまで昆虫の口は、大顎や小顎などが構造的に連関することなく別々に動くことで機能する単純な「噛み口」が祖先型で、それが相互に連関して動く構造的連関(SMI)を持ったことで多様な口が生まれたと考えられていた。それに対し今回の成果では、最初にSMIによってさまざまに変化できる“素養”を持つ祖先型が生まれ、そこからSMIを失った「噛み口」や、多様なタイプのSMIによる「吸い口」や「なめ口」が出現したとしている。