
衛星ライダーによる観測の模式図。約60m径の範囲をレーザー光で照射して、地表から反射されたレーザー光強度の変化を波形として記録している。この例では、最も高い樹冠からの反射で信号が始まり、最も低い地面からの反射で信号が終了している(提供:(国)国立環境研究所)
(国)国立環境研究所は9月18日、人工衛星を利用して森林の炭素貯留量を高い精度で計測する新技術を開発したと発表した。北海道とボルネオ島について検証を行ったところ、有効な結果が得られたという。従来は樹木を1本ずつ計測していたが、今回の解析技術の開発で作業の負担が大幅に軽減できるようになった。さらにこの技術は、地球規模での生物多様性の指標開発への応用も考えられるという。
■北海道、ボルネオ島のデータで有効性検証
炭素貯留量は、森林中に蓄えられている炭素の総量。その森林の炭素貯留量や伐採にともなう炭素排出量の全球分布を高い精度で地図化して気候変動緩和策に役立てようという研究や計画が各国で進められている。それには、排出量の検証を行うために森林の炭素貯留量を世界中で計測する必要があり、現在は現地の森林に入って多大な労力を払って1本1本の樹木を計測する方法で行われている。
新技術は、米航空宇宙局(NASA)の地球観測衛星「ICESat(アイスサット)」で観測したデータを利用するもので、原理がレーダーに類似している「LIDAR(ライダー)」と呼ばれるセンサーの観測データを利用して森林の炭素貯留量を現地に行かず、しかも広い範囲にわたって計測するというもの。
レーダーは、電波を使うが、それをレーザー光に置き換えたのがライダー。「アイスサット」は、衛星直下の直径約60mの範囲の地表面に対し170mごとにレーザー光を照射し、地表面から反射されてくるレーザー光の強度変化を波形として記録している。同研究所は、「アイスサット」衛星が記録した地表面から反射されてくるレーザー光の波形の長さや形状を解析するという手法で森林の炭素貯留量を高精度で計測できるようにした。
北海道(温帯林)とボルネオ島(熱帯林)という森林タイプの異なる2地域を対象にしてテストした。ボルネオ島の平均樹高30m、平均森林バイオマス(間伐材など森林からの植物由来の資源)が1ha当たり300tにもなる森林資源豊かなジャングルでも精度の低下なしに計測できることを確認している。従来の合成開口レーダーなどを使う方法は、1ha当たりのバイオマスが150tを超えると正確な計測ができなかった。
計測を行った地点数は、北海道が約1万3800カ所、ボルネオ島は同12万8000カ所にも上っており、北海道、ボルネオ島とも「有効な結果が得られた」とし、この計測法によりボルネオ島の森林バイオマス総量が103億4000tであることが分かったという。