負の経験から学ぶ脳のメカニズムに新たな知見
―嫌なことを避ける学習に2つの脳領域が役割分担
:筑波大学/関西学院大学/京都大学(2015年10月16日発表)

 筑波大学、関西学院大学、京都大学霊長類研究所の共同研究グループは10月16日、嫌なことを避けるときに、脳内の2つの領域が互いに異なる役割をしていることを見出したと発表した。嫌なことから学習する脳のメカニズムについての理解を深める成果という。

 

■「いち早い検出」と「記憶して将来の行動を変化」担う

 

 私たちは、お金を失ったり、怒られたり、期待していた報酬がもらえなかったりすると、嫌だと感じる。ある行動をした結果、嫌なことが起こったら、次はその行動を避けるように学習する。

 このような場合に、外側手綱核(がいそくたづなかく)と前部帯状皮質(ぜんぶたいじょうひしつ)と呼ばれる2つの脳領域の活動が高まることが知られている。そこで研究チームは、この2つの脳領域がそれぞれ果たしている役割をサルによる実験で調べた。

 実験は、パソコンモニターに左右2つのターゲットを示し、サルは目を動かすことでターゲットを選択。一方のターゲットを選択すると、50%の確率でリンゴジュース(報酬)が与えられ、もう一方を選択しても報酬は与えられない。報酬を与えられるターゲットの位置は、サルには分からないタイミングで左右入れ替えた。

 この実験中のサルの外側手綱核と前部帯状皮質の神経細胞から活動を記録した。その結果、外側手綱核と前部帯状皮質の多くの神経細胞が、報酬を得られなかった(嫌なことが起きた)ときに強い興奮性の活動を示した。この活動は、外側手綱核の方が早いタイミングで起きた。嫌なことに対する前部帯状皮質の活動が大きく変化したときに、サルは、それまでのターゲットを変えた。また、前部帯状皮質の神経細胞は、嫌なことを繰り返し経験するたびに興奮の程度を段階的に変化させた。

 こうしたことから、外側手綱核は嫌なことが起こったことをいち早く検出する役割をし、前部帯状皮質は現在や過去に起こった嫌な経験を記憶して、将来の行動を適切に変えるような役割をしていることを見出した。

 嫌なことを避ける学習に関わる脳領域は、これら2領域以外にも複数存在するため、今後はそれらの領域の役割分担についても明らかにしたいとしている。

詳しくはこちら

図

過去の無報酬の繰り返しに関係する外側手綱核と前部帯状皮質の神経細胞活動の例。外側手綱核は、サルが無報酬を繰り返し経験しても常に同じ強さで活動しているのに対し、前部帯状皮質では無報酬の繰り返しに応じて活動が増大している(提要:筑波大学)