筑波大学は12月22日、サケやイクラなどに含まれる天然色素で強い抗酸化力を持つ「アスタキサンチン(ASX)」を長期間摂取すると、記憶を司っている海馬の神経新生が促進され、学習記憶能力が向上することが明らかになったと発表した。アンチエイジングに効果的なサプリメントとしての利用が進むだけではなく、今回の研究成果をもとに関連の新薬の開発も期待できるという。
■サプリメントの利用促進や新薬開発も
赤い色素のアスタキサンチンは、老化や病気の元となる活性酸素を消去する抗酸化作用や、眼精疲労の回復効果などさまざまな作用があるとされ、サプリメントや健康食品、化粧品などに用いられている。
また、動物実験でアスタキサンチンに急性の脳損傷に伴う神経の炎症や死滅を防ぐ神経保護効果があることや、脳虚血に伴う記憶の低下を抑制する効果があることなどが報告されている。しかし、海馬機能に与える効果についてはこれまで明らかでなかった。
研究チームはアスタキサンチンが海馬機能にもたらす影響に的を絞り、さまざまな側面から調査、研究した。
実験ではまず、アスタキサンチンの濃度が異なる飼料(0.02%、0.1%、0.5%)と、プラセボ(偽薬)の混ざった飼料を大人のマウスに4週間与えた。海馬の神経新生は、細胞増殖の数(Ki67陽性細胞)と新生した細胞のうち神経細胞へと成熟した数(BrdU/NeuN陽性細胞)の数で評価を行った。
その結果、0.1%と0.5%濃度の飼料を与えたグループで海馬の細胞増殖数の有意な増加が認められ、そのうち0.5%濃度の摂取グループでは、新生細胞のうち神経細胞に成熟した数(新生成熟細胞数)の有意な増加が認められた。つまりアスタキサンチンの効果は濃度依存的であり、0.5%が神経新生を高める有効な濃度であることが分かった。
次に、動物の空間学習と記憶能力を評価する典型的な実験手法(モリス水迷路)を用いて、0.5%濃度の餌の摂取が海馬の学習・記憶機能に与える影響を調べた。その結果、学習能力、記憶能力の有意な向上が認められた。これは、アスタキサンチン摂取による海馬の神経新生促進が学習・記憶能力向上に寄与する可能性を示しているという。
さらに、一度に複数の遺伝子の発現変化を同定できるマイクロアレイやネットワーク解析などに向いたソフトウエアなどを用いて、海馬の神経新生と認知機能が高まる分子レベルのメカニズムを検討した。その結果、アスタキサンチンの作用は、これまで知られていない新たな分子機構(新たなシグナル伝達経路)によって調節されている可能性が浮き彫りになった。
これら一連の成果は、アスタキサンチンのサプリメントとしての利用価値を高めるとともに、新たな分子メカニズムに基づく創薬への展開につながることが期待できるという。

異なるアスタキサンチン濃度の摂取が神経新生に及ぼす影響。(A)は、Ki67陽性細胞数、(B)は、BrdU/NeuN陽性細胞数。細胞の増殖と新生細胞の成熟は、アスタキサンチンの濃度依存的に促進され、0.5%のアスタキサンチン摂取のみで新生成熟細胞数が有意に増加した(提供:筑波大学)