外来遺伝子の分解を生きた細胞内で可視化に成功
―細胞によりDNAの分解活性が異なることも突止め
:産業技術総合研究所/北海道大学/理化学究所(2015年12月21日発表)

 (国)産業技術総合研究所は12月21日、北海道大学、理化学研究所と共同で生きた細胞内に入れた外来遺伝子が分解される様子を分子レベルで可視化し解析する技術を開発、分解能力が細胞の種類によって異なることを突き止めたと発表した。遺伝子治療や新薬開発に欠かせない細胞内への遺伝子導入技術の高度化に役立つと期待している。

 

■遺伝子治療・核酸医薬など幅広い応用期待

 

 研究グループは、レーザー光で細胞内の分子間相互作用を検出する「ラスター画像相互相関分光法(ccRICS)」と、導入外来遺伝子のDNA(デオキシリボ核酸)に2色の蛍光色素で印をつけ、DNAが分解されたかどうかを判別する手法を組み合わせた。さらにこの技術で連続撮影した多数の静止画像を一括して動画像にするプログラムも開発、細胞内でのDNA分解の様子をリアルタイムで可視化することに成功した。

 実験では、異なる細胞内にDNAを導入した場合にその分解が細胞の種類によってどのように異なるかを調べた。このため遺伝子の導入効率が悪いことで知られる「MEF」と呼ばれるマウスの細胞と、遺伝子導入によって効率よくタンパク質を作る「HEK293」と呼ばれるヒト胎児の細胞を用い、遺伝子導入の効率がDNA分解とどう関係しているかを解析した。

 その結果、導入効率の悪いMEF細胞では細胞内に入れたDNAが5分以内に分解されたのに対し、導入効率が良いHEK293細胞ではDNAの分解があまり見られなかった。これは外来導入遺伝子のDNAが細胞内で分解されやすいほど、外来遺伝子に対応するタンパク質を作る(遺伝子発現)効率が低いという負の相関があることを示しているという。

 細胞内への遺伝子導入は遺伝子治療や、特定の遺伝子を制御するためにDNAなどの核酸を利用する核酸医薬の基盤技術とされている。ただ、その技術の確立には分解の仕組みの解明が欠かせないとされていた。

 研究グループは「細胞の種類によって外来DNAの分解活性が異なるという新しい概念が発見できた」という。今後は細胞内のどの分子が分解の仕組みを担っているかを解明、遺伝子治療・核酸医薬のほか、DNA代謝と疾患の関係など幅広くこの技術を展開することを指したいとしている。

詳しくはこちら

図

生きた細胞におけるDNA分解活性の観察(導入から4.2分後)(提供:(国)産業技術総合研究所)