(国)産業技術総合研究所電子光技術研究部門は1月28日、シリコン光配線の先端を曲げて垂直方向に立体的に湾曲させる画期的な技術を開発したと発表した。シリコン光回路から垂直な方向に向かって光を入出力できるため、光ファイバーや外部の光部品と容易に結合できるようになる。
■光結合損失が2dBの高い効率
通信の大容量化と高速化が進んでいる。特にデータセンターの内部配線やデータセンター間の通信、また中央演算処理装置とメモリーとの通信などに技術ニーズ生じている。
従来の電気配線では抵抗や容量の制限のために、高速度化や高密度化するたびに信号の遅れや減衰が生じて効率が下がってしまう。光による通信はその制約条件がないため、高速化、高密度化に有利であり、光通信が中、長距離通信の主流になっている。
そこで必要になるのが光ファイバーなどの外部の光部品と、光配線を効率よく結合する技術。ウエハー表面で直接、光結合できればコストが抑えられ、ウエハー段階で検査ができる利点がある。そのために光導波路の先端を垂直方向に曲げる技術が求められていた。
産総研は、LSI製造技術で使われるイオン注入法を使って、シリコン光配線の立体湾曲加工というミクロの技術を完成させた。光配線の先端部を覆っている石英ガラスをはがしてシリコン光導波路を露出させ、そこにイオンを最大100kV(キロボルト)程度に加速して注入し、原子と衝突して生じる歪みを曲げ加工に利用した。垂直に立ち上がった導波路の曲げ半径は3μm(マイクロメートル1μmは100万分の1m)と、最も小さくできた。
光回路の入出力端にこの立体湾曲結合器を作ったテストチップを試作し、外部から光ファイバーと結合させたところ、光結合損失が約2dB(デシベル)と高い効率が得られた。
今回は実験室レベルの実証試験だが、実用化には半導体工場と互換性のある大口径ウエハーでのプロセス検証実験が必要となる。そこで、産総研などが運営するつくばイノベーションアリーナの300mmウエハー研究開発ラインなどでの検証実験を進め、さらに技術移転、共同研究などを図っていくという。
左は、立体湾曲シリコン光配線の概念図。右は、それを搭載したシリコン光回路が表面垂直方向からの光ファイバーと光結合した状態の光学顕微鏡写真(提供:(国)産業技術総合研究所)