非組換えポプラ(左)と組換えポプラ(右)の断面図と線維細胞。AとBの赤い染色は木質中のリグニンの存在を示す。Bでは周縁部や中央部など通常、木化しない部位まで木化していることが分かる。線維細胞では、組み換えポプラ(D)の方が、より木質が蓄積していることが確認できる(提供:(国)産業技術総合研究所)
(国)産業技術総合研究所と(国)森林総合研究所は1月27日、イネの遺伝子を組み込みポプラの木材生産性を約4割、木質強度を約6割高めることに成功したと発表した。将来は高強度木材の実現や石油に代わるバイオ燃料、バイオプラスチック原料の高効率生産につながり、二酸化炭素の排出削減に役立つと期待している。
■高強度木材の実現や二酸化炭素排出減など期待
樹木にはもとより、イネなどの草本植物にもその細胞壁には木質成分(セルロースやリグニンなど)が含まれている。研究チームは、この木質成分を作るときに働くイネの遺伝子を制御している遺伝し「OsSWN1転写因子」が実験用モデル植物として知られるシロイヌナズナの木質生産も活性化させることに着目。その仕組みをポプラに利用する研究に取り組んだ。
実験では、イネのOsSWN1遺伝子にポプラの繊維細胞内で強く働けるようにするDNA(デオキシリボ核酸)配列(プロモーター)を付け加え、遺伝子組み換え技術を用いてポプラに導入した。その結果、約15cmに育った幼植物の段階で、通常なら木質生産が起きない部位でも木質が作られ、もともと木質を作る線維細胞ではより厚い木質が蓄積していた。
このポプラを樹高約60cmにまで成長させて詳しく調べたところ、成長には悪影響を与えることなく木質が過剰に蓄積、茎の平均密度は遺伝子組み換えをしなかった場合に比べ約4割向上、破断強度も約6割上昇していた。
今後、研究チームは光合成能力の強化など他の技術とも組み合わせながらさらに木質生産量の向上などを目指す。さらにポプラ以外のユーカリやアカシアなどへの応用も検討、2030年ころには樹木を利用したバイオエタノールの生産効率を50%向上させ、世界で栽培する木質生産用植物の20%にこの技術を適用して年間4,000万tの二酸化炭素排出削減につなげたいとしている。