(国)物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクト研究拠点のグループは6月16日、次世代の電子材料として注目されるマルチフェロイック物質を開発し、実用化の大きなめどとなる室温で動作させることに、世界で初めて成功したと発表した。次世代の省エネ型の記憶メモリーやセンサー、エネルギー変換デバイスなどへの応用が期待される。
マルチフェロイックとは、一つの物質の中に磁石の強い性質と、電気を貯める強誘電体など複数の性質が共存する状態をいう。同じ物質で、電圧を変化させると磁気的な性質がコントロールでき、磁場を変化させれば誘電的な制御もできる“一人二役”のマルチタレントで、電気、磁気、光学材料などの画期的素子の開発につながると注目されている。
これまでに報告された幾つかのマルチフェロイック物質は、超高圧力下やマイナス200℃近い極低温でないと動作しないなどの問題があった。
研究グループは、分子レベルの薄さの磁石のナノ膜と、誘電体のナノ膜をサンドイッチ状に何層も積み重ねた人工超格子膜を作成した。ナノ膜は水に分散したコロイド溶液として作り、性質の違うナノ膜を一層ずつ精密に積み重ね、アンモニウムイオンを接着剤として構成した。
その結果、膜厚が10nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)と極薄ながら、室温で磁場による電気分極の制御(誘電体)と、電場による磁化の制御が可能であることを確認できた。
室温で動作する安定な構造で、多機能で低電圧でも動くことから、非接触で電気エネルギーを蓄えられる新しいキャパシタ(コンデンサー)などの開発にも道が開けそうだとみている。