(独)農業環境技術研究所は1月24日、台地や丘陵に囲まれた谷底の水田である「谷津田(やつだ)」が植物の多様性を高めている仕組みを解明したと発表した。発表によると、谷津田で多様性の高い植物群落が維持されているのは、田面に日が良く当たるように水田周辺の草刈りが定期的に行われているからという。しかし、このような草刈りが行える谷津田と山林が隣接した場所が近年、著しく減少していることも判明した。
同研究所は、田園地域の生物多様性を重視する農業推進が国家戦略に掲げられたのを機に、どのような農業活動が生物多様性の保全に役立っているかを茨城県南部の筑波・稲敷台地で調べた。谷津田の脇(谷津型)、下草刈りされた松林(松林型)、土砂を採取した跡の造成地(平地型)などの草地66地点で、全ての植物種について生育量(地表を覆う面積の割合)を調べ、各タイプごとに植物群落を統計的に比べた。また、1970~80年代の植生調査とも比較した。
その結果、谷津型と松林型では、ワレモコウなど在来の多年生草本植物の多様性を示す値が高く、過去に調査された草地での多様性の値と同程度だったのに対して、平地型では値が低かった。また、松林型で多様性が高いのは木が多いためだが、谷津型では秋の七草のフジバカマのような希少植物があるために多様性が高いことが分った。隣接斜面の草刈りが定期的に行われる谷津田のすそ刈り草地では、草丈が低いため日当たりが良く、小さな植物でも生育可能である。
このような谷津田の現状を知るため、同研究所は国土地理院が作成した国土数値情報の土地利用データを用いて、千葉県と茨城県の関東地方東部で、水田と森林が隣接している長さを推定し、その変化を較べた。その結果、1976年と1997年では水田と森林の隣接部分が減少していることが分った。これは、谷津田周辺で植物の多様性を維持している草刈りの行われている場所の減少を意味している。
No.2008-3
2008年1月21日~2008年1月27日