(独)産業技術総合研究所は8月25日、抜歯された「親知らず」の歯胚(しはい)と呼ぶ組織からiPS細胞(ヒト人工多能性幹細胞)を得ることに成功したと発表した。
iPS細胞は、ヒトの皮膚細胞から人工的に作られた幹細胞のことで、昨年11月に京都大学の山中伸弥教授らが初めて作製する技術を確立したと報告した。幹細胞は、体を構成するあらゆる種類の細胞を作り出す(分化する)能力を持っている。
山中教授の報告の後、iPS細胞の増殖能と分化能が非常に優れていることは世界的に証明されてきたが、実際の応用、特に臨床応用への展開については不明の点が多い。多くの患者に適応するためにも、細胞を得やすく、しかも保存できるヒト細胞からiPS細胞への誘導技術の確立が求められている。
産総研の研究グループは今回、日常的に歯科医で抜歯され捨てられている歯胚に着目した。成長したヒトから得られる組織で、それも捨てられる組織が使用できれば、iPS細胞の作製が容易になるばかりでなく、必要なiPS細胞を迅速に提供できる体制(バンキング)作りなども可能となる。
産総研で数年間冷凍保存されていた親知らずの歯胚由来の間葉系細胞(未分化の細胞で、様々な細胞への分化能力や自己複製の能力を持つ細胞)を融解して増殖し、SOX2、OCT3/4、KLF4という3つの遺伝子を導入した。その結果、iPS細胞への誘導技術を確立することに成功し、広範囲な再生医療(組織の修復・再生)に利用できる可能性を示した。
この研究成果は、8月21日に東京大学で開催された再生医療を目指すナノバイオテクノロジーのシンポジウムで発表された。
No.2008-33
2008年8月25日~2008年8月31日