世界初、高性能強磁性トンネル接合素子で高周波発振に成功
:産業技術総合研究所/大阪大学/キヤノンアネルバ

 (独)産業技術総合研究所は8月28日、大阪大学、キヤノンアネルバ㈱と共同で高性能強磁性トンネル接合素子を使って高周波の発振に世界で初めて成功したと発表した。出力は、0.1µW(マイクロワット、1µWは100万分の1W)以上で、従来の巨大磁気抵抗素子による出力の100倍以上を実現、電子の持つ自転(スピン)と電荷を同時に利用するスピントロニクス素子の新たな応用の道を開いた。
 巨大磁気抵抗素子がマイクロ波発振器になることは2003年に米国で発見されたが、出力は最近でも1nW(ナノワット、1nWは10億分の1W)程度で実用化には程遠い段階にある。それ以前に日本で発見されていた磁気抵抗変化の大きな強磁性トンネル接合なら大きな出力が得られると思われたが、大電流を流すとトンネル接合が壊れてしまうためこれまで発振はできなかった。
 今回、共同研究チームは、断面が70nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)×160nm程度の柱状のトンネル磁気抵抗素子を製作した。素子は、絶縁体の酸化マグネシウム薄膜をコバルト・鉄・ホウ素を含んだ厚さの違う永久磁石2個で挟んだ構成。薄い方の磁石は、磁極の向きが回転でき、厚い方は磁極の向きが固定されている。この素子に電流を流すと、電子のスピンも流れ込み、もともとあったスピンとの間に回転力が発生、薄い方の磁石の電子のスピンがコマが倒れる前に見せるような首振り運動(歳差運動)をする。
 薄い方の磁石で電子スピンが歳差運動すると、二つの磁石の磁極の相対的な角度が高速振動することになり、これに伴って強磁性トンネル接合の電気抵抗も高速振動する結果、素子に高周波電流が流れる、というのが強磁性トンネル接合素子の高周波発振の原理。発振器としての実用化には、10µW以上の出力が必要なので、今後、素子効率をアップして単独素子の出力向上を目指す。

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