(独)産業技術総合研究所は5月11日、高温超電導酸化物薄膜を用いて、電力網での落雷による短絡(ショート)時などに流れる大きな事故電流を瞬時に抑制する素子「超電導薄膜限流素子」の大容量化に成功したと発表した。試験では、長さ20cmの薄膜で事故電流を従来の3分の1以下に抑えられた。出力不安定な自然エネルギーによる分散電源を電力網に多量導入するための基盤技術として期待される。 風力発電のように気象条件で発電量が決まる中小規模の発電施設(分散電源)が既存の電力網に数多く接続されるようになると、短絡事故時に電力網に流れる電流が増大して電力関連設備が破損するのを防ぐ「限流素子」が必要とされる。 そのため、通常時はゼロ抵抗で臨界電流以上の電流が流れると高抵抗になって電流を抑える超電導限流器に対する要望が強まっているが、超電導薄膜が高価なことが実用化へのネックになっていた。今回開発したのは、液体窒素温度(-196ºC)で超電導となるイットリウム系高温超電導酸化物(YBa2Cu3O7)の厚さ160nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)の薄膜(長さ20cm×幅2.7cm)を用いた500ボルト/200アンペア級素子用のモジュールで、この薄膜は同研究所が開発した「塗布熱分解法(MDO法)」という手法で作られた。 薄膜限流素子で問題とされている短絡事故直後、過電流で最初に超電導でなくなった部分が局所的に温度が急上昇し、薄膜が焼損するホットスポット現象に対しては、従来使っていた純金より抵抗率が1桁近く高い金銀合金を超電導薄膜に蒸着して分流保護層とすると共に、抵抗が薄膜の5分の1以下の無誘導巻き分流抵抗を並列接続することで対処した。これで従来素子と比べて、単位長さ当たり許容電圧が4倍以上高まり、超電導薄膜の長さを4分の1以下に低減、コストを大きく下げることができた。 超電導薄膜限流器実用化に当たっては、1,000アンペア級以上への更なる大容量化など、まだ幾つもの問題が残されているが、今回の研究開発で3相6,600ボルト/200アンペア級の超電導薄膜限流器は直径70cm、高さ2m程度の極低温容器に収容できる見通しを得た。価格としては、1,000kW当たり200万円以下を目指している。 この研究開発の詳細は、6月11~12日に京都大学で開かれる電気学会の超電導応用電力機器研究会で発表される。 詳細はこちら | |
新開発の超電導薄膜限流素子(提供:産業技術総合研究所) |
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