嗅覚機能の他覚的検査法を開発
:産業技術総合研究所/自治医科大学

 (独)産業技術総合研究所は10月1日、自治医科大学と共同で、嗅覚機能の他覚的検査方法を開発したと発表した。
 一般に患者(検査を受ける人)の報告に基づく診断法を、自覚的検査と呼ぶが、患者の報告以外の指標(たとえば、脳波や脳磁場)によって診断を行う検査法を 他覚的検査という。視覚や触覚、触覚などでは、すでに他覚的な診断法は存在するが、嗅覚の場合は刺激が気体によるものであり、その制御が難しいために他覚的診断法は確立していない。
 同研究所では、これまで自覚的嗅覚検査法と共に他覚的嗅覚検査法についても研究開発を行ってきた。他覚的嗅覚検査法としては、嗅覚刺激提示システムと脳波・脳磁場の同時計測を組み合わせ、嗅覚異常者と健常者における嗅覚認知という観点から研究を進めてきた。
 今回開発した検査方法は、特殊な嗅覚刺激装置と同研究所が独自に開発したニオイセンサー(超音波高速嗅覚センサー)を用いて嗅覚誘発脳波・脳磁場の同時計測を行うというもの。
 ニオイセンサーとは、ニオイのもととなる気体分子を検出するセンサー。従来のセンサーでは、刺激による脳内の応答の計測に必要なミリ秒の気体分子の変化を追跡することは不可能であった。研究グループは、超音波を用いることで、マイクロ秒(1マイクロ秒は100万分の1秒)の時間変化を追うことができるニオイセンサーの開発に成功した。
 検査では、自治医科大附属病院で嗅覚疾患と診断された患者4人と同研究所が集めた健常者5人に対し、嗅覚誘発脳波・脳磁場の同時計測を実施した。その結果、患者と健常者には、計測値に明確な差が認められた。
 今回開発した技術は、嗅覚検査における詐病(さびょう=病でないのに疾病にかかったふりをすること)の発見に用いることも可能である。また、アルツハイマー病やパーキンソン病では、初期段階に嗅覚減退が起こるといわれており、これらの診断・疾病の発見につながると共にメカニズムの解明に役立つ可能性があると期待されている。
 この研究成果は、10月1~3日に開催された「第48回日本耳鼻科学会」で発表した。

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新開発のニオイセンサー(提供:産業技術総合研究所)